SEAMAJ第41回研究会
日時 2023年10月28日(土)午後2時30分より午後5時まで(ベルギー時間午前7時30分、上海時間午後1時30分) 開場午後2時 TEAMS
講師 ; 新井 大輔 様 博士(工学) 研究員
名古屋大学 未来材料・システム研究所 山本研究室
講演タイトル ; 『ラピダスの財務シミュレーションと国の関与のあり方を考える』
【主な内容】
☆バランスシート(貸借対照表)の基礎
☆事業会社の経営シミュレーションと貸借対照表の例
ー 製造業(半導体製造を含む)の貸借対照表
☆市中銀行の役割
☆市中銀行・中央銀行・政府を含む貸借対照表の動き
☆経済安全保障を実現するための各セクターの役割を考える
ー ラピダスに対して国が関与する際のパターン想定
☆現在の経済情勢(2023年後半)
参加者(敬称略)
原口、国井、水島、和田木、水島、佐藤、新井、太田、林、鈴木、久保田、渡邊、辻、三重野
んでした。
★ P.52~P.53
★ P.81~P.99
★ P.108~P.110
★ P.120~末尾
【0. 現在(2023年後半)の経済情勢】
0.1. 国の借金
☆日本政府の借金
2023年の負債総額は約1500兆円
2010年は、約1000兆円だった
13年間で、1.5倍の増加
☆米国政府の借金
2023年の負債総額は約30兆ドル
2010年は、約15兆ドルだった
13年間で、2倍の増加 (←増加率は、米国が日本を上回る)
☆米国では、政府の債務上限を法律で決めることになっているので、
2年に1回のペースで、議会でプロレスをやって
揉めるパフォーマンスをして、期限切れ前夜に可決する習慣がある
0.2. 経済成長率と政府の財政支出との相関
☆経済アナリストの島倉原氏によると、政府が国債を発行して財政支出をする国ほど、
GDP成長率が高くなる相関が見られると報告している
☆日本は財政支出の伸び率が0%で、GDP成長率も0%
☆中国は 〃 15% 、 〃 12%
☆米国は 〃 4% 、 〃 4%
※中国は、人が住まないタワーマンションを建て過ぎてゴーストタウン化しているので、
やり過ぎかも知れないが、多くの国が相関線上に乗っていて、
米国も例外ではなく、堅実な成長率を示している点は興味深い
→ [新井の意見] 日本も、必要な支出は国債発行でまかなって良いのではないか
0.3. 日米のマネタリーベースとマネーストックの推移
☆日本はマネタリーベースが増加しても、マネーストックが緩慢な増加を示す (*1)
☆米国はマネタリーベースの増加に対し、マネーストックが強く反応して増加する (*2)
0.4. 金利動向
☆米国の政策金利(フェデラルファンド金利)は、コロナバブル後のインフレに対応するため、
2022年~現在まで急速に引き上げられ、現在5%程度である
☆欧州も、同じ理由で急速に金利を引き上げている
☆日本だけ、不況が続いているため、金利を引き上げられず、ゼロ金利(一部マイナス金利)を継続
☆政策金利は、おおむね将来の国債償還額に対して、現在の国債価格を示すものであるから、
金利が上がると現在の国債価格が下落 → 2023年3月にシリコンバレー銀行が破綻した理由
0.5. 為替レート
☆2022年に円安のピークがあり、いったん戻したが、2023年に再び円安に振れている
☆2022年は、世界の通貨に対してドルだけが高く、結果的に円安だった
☆2023年は、ドルが強いわけではないのに、円だけ安くなっている (←円の一人負け)
☆日本だけ金利が低いことの副作用が現れている可能性がある
【1. 貸借対照表の基礎】
1.1. 貸借対照表(バランスシート・BS)の描き方
☆右側が、負債・純資産の部と呼ばれる。お金や資産が『どこから来たか?』を表す
☆左側が、資産の部と呼ばれる。お金や資産が『何に使われているか?』を表す
1.2. 貸借対照表(バランスシート・BS)に慣れる
☆AさんとBさんの2人がいて、それぞれ所持金が200円とする。その状態を示す貸借対照表を描いてみる (*3)
☆BさんからAさんに、100円を貸す場合の貸借対照表の遷移を描いてみる (*4)
☆BさんからAさんに、100円を贈与する場合の貸借対照表の遷移を描いてみる (*5)
☆(*3)では、2人の資産の合計額は400円
☆(*4)では、2人の資産の合計額は500円
☆(*5)では、2人の資産の合計額は400円
☆(*3)~(*5)の比較により、誰かが借金をすることにより、みんなの総資産が増加することが分かる
【2. 民間事業会社(製造業)の貸借対照表】
2.1. 株式会社を設立して、製造業を営む際の貸借対照表をシミュレートしてみる
☆株式の発行
☆固定資産の購入
☆銀行からの借入れ
☆買掛金での材料購入
☆材料の加工と製品の製造
☆費用処理
☆売掛金による製品の販売
☆減価償却
このような営業活動をトレースしてみると、民間事業会社の貸借対照表が
どのように出来上がるか、感覚がつかめる。四半期決算を読めるようになる
【3. 市中銀行の貸借対照表】
3.1. 市中銀行の営業活動をシミュレートしてみる
☆民間企業・一般人が、市中銀行に預金すると、市中銀行にとっては負債となる
☆市中銀行の資産は、日銀当座預金からスタートする
☆市中銀行が保有する日銀当座預金は、中央銀行(日本の場合は日銀)の負債となる
☆民間企業が、市中銀行から借入れを行うと、市中銀行の預金量が増える
☆このとき、日銀当座預金の量は不変である
☆市中銀行が、日銀に保有する日銀当座預金の総量を『マネタリーベース』と呼ぶ
☆民間企業・一般人が、市中銀行に保有する預金の総量を『マネーストック』と呼ぶ
☆(*1)(*2)を見ると、
米国は、マネタリーベースに対してマネーストックが大きく増加するので、民間企業が積極的な経営をしていると言える
日本は、マネタリーベースに対してマネーストックの増加が緩慢なので、民間企業の積極性が乏しいと言える
☆ある決まった日銀当座預金に対して、市中銀行が貸出しにより増やせる預金の上限は
預金準備率で決まっており、日銀当座預金に預金準備率の逆数を掛けた数値となる
【4. 不況時の対応】
4.1. 民間企業が市中銀行から借入れをせず、マネーストックが増えないときにどうするか?
☆以下の手順で、国が公共事業を実施して、マネーストックを増やす
<ステップ1> 国が国債を発行する
<ステップ2> 市中銀行が、日銀当座預金を使って国債を購入し、日銀当座預金が政府預金に振り替えられる
(マネタリーベースが減少、マネーストックがそのまま)
<ステップ3> 政府が公共事業を執行し、建設会社に代金を支払う
(政府預金が建設会社に振り込まれ、マネタリーベースが回復、マネーストックが増加)
<ステップ4> 日銀が日本円を発行し、市中銀行から国債を購入。日銀当座預金が増加。通称「買いオペ」
(マネタリーベースが増加、マネーストックがそのまま)
それでも景気が良くならない場合は、<ステップ1>に戻って、再び同じことを繰り返す
【5. ラピダスの位置づけ】
ラピダスに対する政府の支援は、<ステップ2>で国が政府預金を確保し、
<ステップ3>の財政支出を、どのような形で実施するか、という課題だと考えられる。
以下に考えられるストーリー・パターンを列挙する
<パターン1> 政府が公共事業としてクリーンルームを建設し、政府の資産とする。ラピダスに使わせてあげる
(現状、NEDOの資産とするらしいので、このパターンが最も確からしいか)
<パターン2> ラピダスに株式を発行させ、政府が株式を保有し、ラピダスに資本金を供給する
<パターン3> ラピダスに社債を発行させ、政府が社債を保有し、ラピダスに借入金を供給する
<パターン4> ラピダスに補助金を給付し、政府には資産が残らず、赤字を計上する
各パターンの比較:
<パターン4>は最悪で論外。
<パターン1>は、政府が公共事業の成果物としてクリーンルームを所有することになる。
クリーンルームは、道路や橋と比較して、公共性が著しく劣る。
公共性が乏しい資産を、政府が保有して、資産規模が小さい組織に使わせる類似例は、
BSの形だけを見れば、自衛隊くらいしか思い浮かばない。
<パターン2><パターン3>のほうが、会社経営としては真剣な姿勢に見える。
<パターン2><パターン3>は資金調達額は同じだが、<パターン3>は自己資本比率の低下を招く。
東京メトロ(旧営団地下鉄)は<パターン2>と考えられる。
明治時代の官営八幡製鉄や、官営富岡製糸は未確認だが<パターン2>もしくは<パターン1>かも知れない。
QA(敬称略)
三重野;政府、NEDOの補助金は、ラピダスの貸借対照表には現われない?
新井;現われない。推測であるが、例えば、CR、設備の帰属はおそらくNEDOになっているのではないか。
三重野;では広島マイクロン、九州TSMCへの補助金はどんな扱いになっているのだろう?推測であるが、設備、EDAは米国製品の購入で、大半の金が流れる。且つ、設計IPもIBMからだとすると、かなりの額が米国に行くこととなろう。
2025年から住民台帳はアマゾンが管理するらしい日本政府においては、「経済安保」の名の下に一連の政府補助は米国依存を鮮明にした、と解釈されよう。
半導体業界に政府の金が多量に流れ込むのは、大歓迎であるが。
渡邊;JSRが産業革新投資機構に買収される件をどう見るか? フォトレジストは、各企業が切磋琢磨して独自技術を磨いてきた経緯がある。一つのところにだけ、大金が投入されるのは、他の素性の良い技術会社が危うくなるのではという懸念がある。政府主導の統合?
新井;半導体装置、材料の統合は、、、。今までの成り行きを見ていると、統合が上手く機能した例が無い。
三重野;学習院大学の渡邉先生が、前回の大矢根先生講演で指摘していた。日本政府主導の事例は、競争原理が働かない。寡占状態を作り出すのは、ハイテク産業育成の有るべき姿では無いだろう。
中国の場合の半導体産業育成においては、競争がとても激しい。上場まで漕ぎ着けられる企業が、なんとか生き残っていくという状況だ。その後の優良企業に、更に政府が梃子入れをするところは何とも恐れ入るが。
和田木;リターンの高い分野に、投資するのは間違っていない。国は経済政策をとらなければいけないのだから、リーズナブルなことだ。ラピダスは、チップレットを使って差別化を図りたいようだ。
渡邊;半導体関連に政府が注目してくれているのは、大変有り難いことだ。なので、失敗させたくない。上手く行って欲しいと思う。
IRDSでの2nm量産は2025年で、ラピダス計画では2027年となっている。さてさて?
和田木;TSMCがスケジュール通りに行くとは限らない。
が、IBM2nmはゴミだったと聞いている。現在200人で人が集らない。TSMC、サムソンといったところとのコラボレーションも有り得るだろう。
三重野;中国のファウンドリーはEUVが入らないので、最先端のセカンド、サードソースは狙えない。ラピダスはTSMC,サムソンのセカンドソース、サードソースを狙っていくのもビジネス上有り得るだろう。
渡邊;中国は独自で、EUV開発を行っている。さて、五年後にはどうなっていることだろうか。
三重野;精華大学の新型光源開発のニュースを見たことがある。また、リソースはヨーロッパからは入りやすい状況ではある。立ち上がる可能は否定できないだろう。次回の先生の講演にて、更にお聞きしたい。
日本政府の場合は、米国追随型である。これが仇とならないことを祈る。米国バレエ団の公演が、最近北京で開催された。米中の首脳会談は11月15日の予定だ。また、米国による最先端半導体への取り締まりにより、中国では投資がパワー半導体や設備、材料にどんどん集まっている。これは、日本は過酷な価格競争に追い立てられる可能性が高い。
渡邊;かつての敗戦の痛みから立ち直った日本であるが、ドイツに抜かれGDP第4位に甘んじることになる。
今一度、「日本人の精神を呼び覚ます」必要性を感じる。「経済安保」にしても、外からの押し付けでは無く、真に国民を守る為の観点で作り直す必要があろう。
三重野;長期に未来の日本を考えた上で、半導体産業の各企業、働く人々が元気になれるプランが欲しいところだ。その為には、政府及び経産主導の経済発展促進において上手く機能しなかった、また、上手くいった半導体事例を公開分析するのが良いと思われる。例えば、NEDOは研究開発補助の目的でしか機能していないようだが、この辺りに事業化促進の限界があるのではなかろうか。(認識が間違っていたら、修正をお願いします。)
ハイテクは、何が次の技術の柱になるかは競争してみないと分からない。生き残ったモノが全てだ。例えば、BCIは研究開発ブーム、ベンチャーブームとなっている。イーロン・マスクのNeuralinkは、剣山型電極埋め込み脳外科手術を自動化したと有名だが、Synchron社はステントにより脳血管内に電極を形成する技術を開発し有望視されている。米国も中国も群雄割拠、「坩堝」があるから、強い技術開発企業が育つ。
以上
ありがとうございます。
三重野
